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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(あ)1083号 判決

本籍

福岡県直方市大字下境三三九九番地

住居

同県同市同大字日焼三区四ノ組 日満社宅踏切場

無職

中島良一

昭和三年一月一五日生

右傷害被告事件について昭和三二年四月四日福岡高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

当審に於ける訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人の上告趣意は、事実誤認の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

弁護人玉田弘毅の上告趣意第一点について。

所論は、憲法三二条違反を主張するものであるが、論旨の帰するところは、第一審判決が理由中に公務執行妨害の点につき判示しなかつたことを訴訟法に違反しないものとして維持した原判決を違法であると主張する単なる法令違反の主張にほかならないのみならず、原判決は、第一審判決は公務執行妨害の点を認めるに足りる証拠がないと判断したものと推認し、これを是認しているのであるから、この点につき裁判がなされなかつたものではないので、所論違憲の主張はその前提を欠き理由がない。

同第二点について。

所論引用の判例は、索連犯の一部たる窃盗の点について主文において無罪を言い渡した事案に関し、主文で無罪の言渡をすべきものでないことを主として挙示したものであるから、いわゆる想像的競合の場合に関し、主文で無罪を言い渡さない本件の場合には、右判例は適切でなく、論旨は理由がない(もつとも、いわゆる想像的競合犯中の一部を無罪と認める場合には、判決の主文においてその言渡をなすべきではないけれども、理由中でその判断を示すことは必要である。この意味で原判決の説明は当を得ないが、原判決は、第一審判決が公務執行妨害の点につきこれを認めるに足りる証拠がないと推認したものと認め、無罪の理由を判示しており、第一審判決が確定すれば公務執行妨害の点も既判力を受ける関係にあるのであるから、刑訴四一一条により原判決を破棄するほどのことはない。)

同第三点および第四点について。

所論は、事実誤認又は量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)

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